東アジアの泥染め文化と韓国での柿渋よる黒色の染色

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東アジアの泥染め文化と韓国での柿渋よる黒色の染色

                           

許北九博士(ホ博士)のアジアの染織をレポートするシリーズ、第2段をお届けします!

今回は、「東アジアの泥染め文化と韓国での柿渋よる黒色の染色」についてです。

古くから染めることが困難とされてきた「黒色」、世界各地でこの色を得るために、さまざまな試みがされてきました。

韓国、日本、中国、台湾、ベトナム、東ティモール、インドネシア・・・アジアの国々では、黒を得るためにどのような工夫がされてきたのでしょうか。

韓国の羅州市天然染色文化財團にて運営局長を勤めるホ博士の、長年にわたる調査・研究の一部をご報告します。

                         

               

             

       

序文

黒は色の三原色を混合してできる色であるが、天然の染料を用いて布を黒く染めすることは技術的に容易ではない。

韓国の朝鮮時代(1392-1010)に朝廷王朝で起こった事とその他のいくつかの事実をまとめて記録した「朝鮮王朝実録」の、1596年3月2日の記録には以下のような記載がある。

「堂上(高級官僚)は、藍を使用して、布を黒色に染めて使用し、紫黃色は一切厳禁せよ。もし黒色に染めすることが容易でなければ半分は青色に染色することがふさわしいであろう。(原文:堂上則依平時、用藍色;堂下、則以布子、染黑色、紫黃之色、一切禁斷。若以染黑爲未易、則半染靑色似當)」というくだりがある。

つまり、黒を染色することが容易ではないということが示されている。黒の染色が容易ではないにもかかわらず、アジアの多くの国の祖先は、布を黒く染めするための技術を開発する努力を惜しまなかった。黒の染色技術は、ほとんどタンニンが多く含まれている植物で被染物を染色した後、泥に媒染する方法をとった。韓国でも、筆者の研究により柿渋で布を染めた後、泥で媒染する伝統染色が存在したことが明らかになった。

今回は、この研究の結果の紹介とともに、泥を用いたアジアの伝統的な黒の染色について簡単に比較分析したい。

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図1. 韓国で柿は染料として利用される文化があり、黒の染色にも利用された。

アジアでの泥による黒染めの概要

天然染料と泥を用いた染色の文化は世界各地にあるが、特にアジアで発達してきたと言える。アジアで泥染め文化は、泥のそれ自体を染色顔料として使用するよりも、主にタンニンが含有された染料植物で糸や布を染色した後、泥の中に含有された鉄成分を媒染剤として活用した染色に使用されてきた伝統がある。

泥を用いた染色は、各国とも、特定の地域でのみ発達した共通点がある。黒色染色に使用された染料植物はタンニンが多く含まれている共通点があるが、それぞれの種類が異なり、被染物もまた綿織物、絹、布、糸などの違いがある。

泥を活用した黒染色が発達した代表的な地域と特徴

1)韓国の柿渋染めと、泥染めの服

韓国での、柿渋で服を染色した伝統は、約1000年の歴史があり、主に南部地域に、その遺産が残っている。

その中で、南部地域である全羅南道の珍島郡では、柿の木(Diospyros kaki)の未熟な果実の汁液で染色した綿の服を台所に連結された下水道の「スラッジ(汚泥)」で媒染処理をして黒色に染める文化が存在した。過去、韓国で柿渋染めは、主に布を衣服に縫製した後に染色をした。これは青柿の汁液を搾汁後に染色した布は、硬くて縫製が難しかったからであった。

韓国で柿渋染めをした後、泥染めによる媒染処理をして黒色に染色する文化は文献上現れておらず、筆者が韓国の済州島と全羅南道地域の高齢者を対象にした調査で明らかにした内容だ。

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図2. 韓国では、布に柿渋で染めた後、鉄媒染によって黒に近い染色しているが、過去には、泥を利用して媒染処理後、黒に染めていた文化が存在した。

2)日本の鹿児島の大島紬

日本の鹿児島の大島紬は日本で最も有名な高級絹織物の一つである。鹿児島の奄美大島名瀨市を中心に奄美諸島の全域で生産されているが、この紬は約1,300年の歴史がある。

大島紬は奄美群島に自生するシャリンバイ(車輪梅、Rhaphiolepis indica var。umbellata)の幹や枝を採取し、熱湯を利用して絹糸を染色して乾燥した後、その糸に鉄分の多い泥をつけて媒染処理をしたものである。泥で媒染処理をすると、唯一無二の深みのある黒色、「奄美黒」になる。黒がかった大島紬は軽く保温効果があり、火気や汚れに強く、静電気防止、消臭、防虫効果など、さまざまな優れた特性を持っている。

一方、シャリンバイは韓国で標準名は「다정큼나무(ダジョンクム木)」であるが、藍木とも呼ばれる。これは、この木の青く熟した果実を使用して染色すると、藍染したような色を帯びることから由来したものである。韓国の全羅南道の海岸地域では、シャリンバイの樹皮と根の熱水抽出物に絹糸を染めていた文化がある。

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図3。鹿児島の奄美大島でも染色に用いられているシャリンバイ(韓国で撮影)
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図4。シャリンバイの実(韓国で撮影)

3)中国の広東省仏山市の香雲紗

中国の「香雲紗」は、中国廣東省仏山市順徳で「クール / 紅露(薯莨)」を用いて染められるシルクのことをいう。

日本の本島では希少で、沖縄でも南部の石垣島や台湾で得られる植物である「クール / 紅露(薯莨)」をすり下ろして染液を抽出し、絹織物を染色して、再度泥で媒染した後、太陽の光を当てながら加工したシルクある。泥が塗られた部分は媒染されて黒くなり、布の裏側はクールの色味である赤茶色であることが特徴で、この染色文化は約1000年の歴史がある。

この絹で服を作って着て歩くと「サクサク」と、音(响:シャン)が出るところから、响雲纱(シャンユンシャ)という名前をつけて使用していたが、発音上'响"が同音である"香"になったという主張もある。

染料として使用されている紅露(Dioscorea cirrhosa)は中国南部、インド、フィリピン、沖縄の八重山諸島、ベトナム、ラオスなどにも分布する多年生のつる植物である。染料は、根莖の搾汁液を使用する。紅露は、中国雲南の藍染も染色後に紅露のエキスで染色して黒に近くなるようにするために使用される。

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図5. 中国の香雲紗の製造に利用される染料である紅露の根莖
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図6. 紅露の根莖と切断された断面
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図7. 中国の香雲紗を利用して製作した服(韓国)

4)ベトナム南部のTan Chauのブラックシルク

ベトナムの「Tan Chau Silk」は、ベトナム南部のAn Giang省の北西部に位置するTan Chau地域で「Ebony fruit trees」の未熟な果実の汁液で染めた絹布である。 Ebony fruit treesとは、ベトナム語でmac nua(mặcnưa)と呼ばれる柿の木屬(Diospyros mollis)の植物である。

Tan Chau silkの伝統的な染色方法は、Ebony fruit treesの実を収穫した後、熟した果実は削除して新鮮なものを石や粉砕機で粉砕する(シルク生地10m染色に果実は50kgが必要である)。次に少量の水を混ぜた後、搾汁した液にシルクを浸し、蒸すなどして色素を繊維に吸収させ、数十日間に乾燥させ黒色にする。次に地域の川から出た鉄が豊富な泥で媒染をして色を固定する。Tan Chau silkの色は伝統的に黒だったが、最近では、その意味が幅広​​がり、従来の方法によって黒に染めたのものは、ブラックシルク(Black Silk of Tan Chau)と呼ばれることもある。

図8. 南部ベトナム女性博物館に展示されているEbony fruitの汁液によるTan Chau silk染色のモデル

5)その他の地域と特徴

東ティモールのボボなる(Bobonaru)では、タンニンの含有量が豊富なPhyllanthus reticulatus または Cassuarina junghuhnianaという植物エキスで綿糸を染色した後、泥で媒染処理をした伝統文化がある。インドネシアのスンバ(Sumba)地域でもタンニンが多くの植物抽出物の綿糸を染色した後に泥で媒染処理をして黒色に染色する文化がある。

媒染剤として使用されている泥の特性

1)媒染剤として使用された泥の種類

韓国、日本、中国で黒色染色に使用される媒染剤は、泥という共通点がある。泥を利用する理由は、タンニンが含有された染料で染色した被染物と泥の中の鉄成分が化学反応(媒染)を起こすことによって、被染物が黒く染めるようになるためである。

ところが、媒染剤として用いた泥の種類には、少し違いがある。韓国の全羅南道珍島郡では、台所での調理や、皿を洗う過程で発生する水に含有された有機物が沈殿した泥を利用した。日本の大島紬の産地である鹿児島奄美の泥は有機物が豊富であり、古代から蓄積してきた地層の、河川底の粒子が丸く小さなものを使用している。中国の香雲紗の産地である順徳は広東省の中南部、珠江三角洲の中心部にあり、西江と北江の後ろに位置している。したがって、川を挟んでいるが、川の泥は川底の泥を含めて黒灰色に発効されたものを使用する。

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図9. 紅露の汁液で染色した生地に泥を塗って媒染させているシーン(中国廣東省仏山市)

2)媒染剤として使用された泥の特徴

黒染めするために泥を使用する理由は、泥の中に含有された鉄(Fe)成分を利用するためである。ところが、単純に鉄成分を利用するには、泥より鉄成分が多い赤土、黄土を利用することがはるかに効果的である。それでも特定の泥を使用する理由は、泥の中に含有された鉄成分の溶解度(イオン化)と泥の粒子と関連がある。通常鉱物中に含まれる鉄成分は、酸化状態で存在するため、染色時に媒染剤として活用することが困難な側面がある。ところが、川底や有機物が多く含まれており、発酵状態にある泥の成分は、鉄成分が還元されてイオン化されている割合が高いので、媒染剤として活用するのに適している。

韓国の珍島郡では、きれいな畓の泥よりも、腐敗して悪臭を放つ沈殿した泥に柿渋で染めた布を媒染するために用いる。これは、米を洗った水など、有機物と水分がい泥の方が、発酵によって発生した還元鉄が多くなることによるものだろう。

泥の発酵が進んだ粒子が小さい土は、絹糸を染色する際には素材への損傷が少なく、生地を染める際には、織物の小さな隙間まで浸透することで媒染効果を高める。

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図10.タンニンが含有された紅露のエキスで染色し、泥で媒染処理をした後、天日で干して発色させている様子(広東省仏山市順徳)。

まとめ

タンニンが多く含まれる染料植物で布や糸を染色した後、泥で媒染処理をして黒色に染色する伝統文化は韓国だけでなく、アジアの様々な国に存在しており、いくつかの相違点と共通点がある。

植物染料の面では、韓国は熟していない柿の実、日本はシャリンバイ(車輪梅)、中国では紅露、ベトナムはEbony fruit treesの未熟な実、東ティモールではPhyllanthus reticulatus から抽出された染液を用いる等の違いがあった。

被染物には、韓国は主に綿で作られた衣服、日本は主に絹糸、中国とベトナムでは絹の布、東ティモールとインドネシアのスンバでは綿糸と、様々な特徴が見られた。

染料植物と被染物の種類には違いがあるが、泥の中の鉄成分を利用した媒染処理により黒に染めする方法は共通であった。

これらの伝統文化の差別化を発展させて資産化するとともに、それぞれの国の先祖の知恵を集めて補完して、アジアの資産として発展させたいと思う。

参考文献

許北九. 2007. 神秘的な発酵柿渋、色の柿渋染めの簡単学習. 中央生活社.

許北九. 2016. 近代全羅南道の天然染色と伝統技術. 世悟と利材. 

許北九. 2017. 近代全羅南道珍島の柿渋染めの技術と文化. 世悟と利材. 

非物质文化遗产“香云纱”成果发布惊艳亮相广州. http://gd.qq.com/a/20160511/036636.htm.(2017年 2月 5日 檢索).

脇元理恵, 田崎和江, 縄谷奈緒子, 池田頼正, 今井茂雄, 佐藤一博, 奥野正幸. 2004. 奄美大島紬を染める泥の特性. 地球科學 58(4):199-214.

西田孝太郎. 1941. 大島紬の染色に關する化學的研究(第1報). 日本農芸化学会誌 17(10):863-869. 

Tan Chau Silk. https://minhphuchau.com/en/commerce/tan-chau-silk-292.html(2021年 5月 16日 検索)


文: 許北九 / 校正 : ReASIA

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Heo Buk-Gu

染織、料理、ガーデニング、紙花など文化関連著述家、研究者であり、韓国の伝統的な紙花の作家。100冊以上の単行本を執筆しており、320本以上の学術論文を学術誌に掲載している。代表著書には、「地域の文化を生かす博物館経営マーケティングガイド」がある。2006年に韓国の国立木浦大学の園芸学科で博士学位を取得。現在は韓国の財団法人羅州市天然染色文化財団の運営局長として在職している。

E-mail : /bukgu@naver.com

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